Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

    桐一葉 



 お空のいや高い、晴れの日が続き。町から出れば、眼前に広がるは、稲刈りの済んだ丸裸の田圃が幾枚も。干された稲束を透かす陽の、山間へ落ちるのが本格的に早くなり、乾いた風が日に日に冷えて。支度なしには到底越せぬ、厳しい季節の到来の間近いことを伝える、まるで先触れのようにも思われて。どこぞでか拾った枯枝を振り振り、やんちゃな和子らが駆けてく後を、追いたそうに草むらから眺める小さな影一つ。里へと戻る子供たちを見送っていた、もっと小さな男の子。お尻からひょこりと立つふさふさのお尻尾が、それは楽しそうにゆらゆら揺れていたものが、ぴくりと真っ直ぐに立つと辺りを見回す。耳元を駆けてったのは、風の声。その向こうから、別な声が呼んでいる。

  ――― くうちゃーんっ。どこ〜っ?

 風の向こうから呼んでる誰か。頭の上、亜麻色の髪の間から、柔らかそうな毛並みに覆われた大きなお耳もひょこりと覗き、くんくんってお鼻を震わせれば、
“せ〜なの によいvv”
 お館様とのお勉強。お昼からのは難しいご本を使う、せ〜なへだけのお勉強だから。いつもだったら終わるまで、広間の間近で毬やおもちゃで遊んでる くうなのだけれど。今日は何故だか、風の匂いに誘われた。枯れ草の匂いとか、どこかで燃やされてる藁や茅の焦げた匂いとか。おいでおいでと呼んでるような、そんな気がして。ついついお庭から外へ、里から外へ。人の目を避けながら、たかたか・たかたか、駆けて駆けて。そやって辿りついた原っぱで、トンボを探したり、揺れるススキに飛びついてじゃれたり。夢中になって遊んでたら、こんな遅くになっちゃってて。
“…帰らなきゃ。”
 せ〜なや とと様を“どしたんだろ”って困らせる。おやかま様にも叱らぃる。途中からは仔ギツネへと戻って、たかたか・たかたか、駆けて駆けて。都の端っこ、野辺の廃屋でももっと綺麗なと囃される、荒れ放題のあばら家屋敷へと急ぐ。皆が居て暖ったかいお家。晩になっても誰か居て、美味しいご飯、笑い声。夜になったら せ〜なが同じお布団に入れてくれて。ぬくぬくほわほわ、気持ちがいいのvv
“帰らなきゃ♪”
 たかたか・たかたか、駆け足も弾む。小さな仔ギツネ、長い影。さわさわ、秋風にたなびくススキの声に見送られ、場末のお屋敷へと駆け戻る。また明日ね、お天道様が上ったら遊ぼうね…。




TOPNEXT→***